光の行方 〜 賢者の石編 〜    8


3人で買い物に行った日の夜のこと。

「兄様達に見て欲しいものがあるの」

とってくるから待ってて、と言い残してが部屋を出て行った。

初めは、俺達に見せたい物って何だ、ひょっとして一昨日の隠し事に関係があるものか、等考えていたが、

あまりにも遅いため何かあったのでは、と心配になってきた。

そんな時、その叫び声が聞こえた。



「お父様、エリオット兄様、エース兄様!お願い、来て!死んじゃう!」

「「「?!」」」



俺も兄貴も父上も自分に可能な限りのスピードでの部屋に駆けつけた。

この屋敷は無駄にでかい。おまけに姿現しができないよう魔法がかかっている。

各自の部屋はの部屋の両隣と向かいにあるのに、このリビングはの部屋から少し離れた位置にある。

何でこういうときに限って…!

うちの家族は全員運動能力が高めだが、俺はその中でも特に優れていると自他共に認めている。

そのため一番に部屋に着いたのは俺だった。

!」

扉を開け放ち中を見た。

そこには床に座り込み、何かを手の上に乗せて涙目になっているの姿があった。

座り込んではいるが、怪我をした様子も、呪いをかけられた様子も無かった。

部屋には他の人影も、部屋を荒らされた形跡も見当たらなかった。

に駆け寄りながらそれを確認する。

この館に――ましてやの部屋に侵入できるやつはそういない。

それだけの魔法がこの館との部屋にはかけてある。

おまけに屋敷しもべ妖精達が何の反応も見せないのはおかしい。

だが、目の前に今にも泣きそうな顔をしているがいるのも事実である。

「大丈夫か?何があった?」

「子猫がぁ…」

「はぁ?子猫ぉ?」

!」

俺が声を上げるのと同時に兄貴が部屋に着いた。

「何があった!」

次いで父上も着いた。

が手の上に乗せているのは弱々しく鳴く産まれたての子猫。

の悲鳴の訳が分かった気がする。

兄貴と父上に向かって言った。

「子猫だってさ」

俺の態度と部屋の様子を見て警戒を解いた兄貴達が近寄ってきた。

、どうしたんだい?」

ここからは兄貴の得意分野だ。

俺はを兄貴に任せて屋敷しもべ妖精に子猫に必要そうな物を持ってくるよう頼んだ。





「ほら、これで大丈夫だよ」

病気に対する抵抗力をあげる呪文などをかけた後、子猫を屋敷しもべ妖精が用意した簡易ベッド (バスケットにタオルを

敷き詰めたもの)に入れて、に声をかけた。

「あ、ありがとう」

「まったく、驚かせるなよな。死にそうなのが子猫なら子猫だって言って欲しかったぜ」

「パニックをおこしてしまうのも仕方がないことだよ。でも、僕もに何かあったんじゃないかって、

不安で寿命が縮んだよ」

が気にするから冗談めかして言うけど、大げさに言っているわけじゃない。

の叫び声を聞いた時、恐怖で心臓が止まるかと思った。

エースも軽く言っているけど、僕と同じくらい心配していたのを知っている。

「ごめんなさい」

「気にしないで」

が安心するよう、負担にならないよう笑いながら言う。

「また何かあったら、今みたいに遠慮なく大声で叫んで。そうしてくれた方が僕もエースも嬉しい。本当だよ」

あぁ、ったら信じてない。知らないところでが危険にさらされていると思うと、

そっちの方がよっぽど寿命が縮むんだ。

「俺も同意見だ。俺の知らないところでお前が厄介ごとに巻き込まれる方が迷惑だ。

危険なことには近づかないのが一番だが、巻き込まれちまった時は絶対に俺達に言えよ」

やっぱりエースも同じ事を考えている。2人がけの説得でようやくも納得してくれた。

あぁ、本当にこんな事でよかった。

こんな騒ぎを他の奴が起こしたら、何らかの形で報復をするが――その前にこんなに心配することも無いだろうが――相手が

だと苛立ちなんかより安堵感の方が圧倒的に強い。

が無事であった、という事が僕やエース、父上を何よりも喜ばせているということになぜ

気がつかないのだろう。

ところでこの騒ぎの元凶の猫はいったい何なんだ?





が無事でよかった。

エリオットとエースの反応にはやはり若干の不安を覚えるが… と、そこで黒い割れた卵のような物が

机の上にあるのを見つけた。

「これは…?」

やはり、に渡した瑠璃からの預かりものだった。ということは、あの猫がこの卵から産まれたと、そう考えるべきか?

、あの猫について説明してくれないか」





やはりお父様に気づかれた。呪文のこととかは内緒にして、猫が産まれてきたところだけ話そう。

「この卵を兄様達に見せようとしたの」

それでハンカチをほどいたら、あんなに硬かった卵にひびが入ったこと。

中から出てきた猫は鳴き声も弱々しく、死んでしまいそうでパニックをおこしてしまったことなどを話した。

「産まれた原因は分からないのだけど…あ、月の光かもしれないわ!」

3人がびくっとしたのが見えた。

「月の…光?」

「そう、嘘みたいな話だけどそれくらいしか考え付かないもの。偶然かもしれないけど月の光を浴びた瞬間に

卵にひびが入ったの」

私の話を聞いてエース兄様は怖い顔をして子猫をにらんだ。

「ど、どうしたの?エース兄様」

「…いや。この猫は俺が誰か引き取り手を捜しておいてやるよ」

「え?」

「うん、僕も手伝っておくから安心していいよ」

「何を言ってるの?この猫は私が飼うのよ。さっき言い忘れたかしら。この子はお母様がくれた卵から産まれた猫なの」

「…どうしてもこれを飼いたいのか?他の猫をいくらでも買ってやると言っても?」

「もちろんよ、お父様。3人ともどうしたの?黒猫は嫌い?」

その子猫は真っ黒だった。だからこんなに飼いたがらないのだろうか。

「いや。…では好きにしなさい。その代わり何か変わったことがあったらきちんと私達に報告すること。いいね」

「えぇ、分かったわ」

どこかすっきりしないものを感じながらも飼えることにほっとしてはうなずいた。








視点は上からエース、エリオット、ソード、ヒロインです。
普通の猫はたまごからは産まれませんよ(笑)



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