光の行方 〜 賢者の石編 〜 27
「トーストをちょっとだけでも」
「お腹すいてないんだよ」
試合当日の朝、ハーマイオニーがなだめすかす横で、真っ青な顔をしたハリーが答えていた。
「ハリー、力をつけておけよ。シーカーは真っ先に敵に狙われるぞ」
「わざわざご親切に」
シェーマス・フィネガンは善意からハリーに忠告した。
しかしその言葉が逆効果だったことは、ケチャップを山盛りに絞り出しているシェーマスを見るハリーの虚ろな目を見れば明らかだ。
「フルーツなんてどう?さっぱりしているから食べられるんじゃないかしら」
もそんなハリーが心配になって声をかけたが、ハリーの返事は変わらなかった。
「ありがとう、でも本当にお腹すいてないんだ」
「初試合なんだものね。仕方がないことかもしれないわ」
は溜息をついて引き下がることにした。
その代りに、少しでもハリーの緊張がほぐれれば、と励ましの言葉をかける。
「ハリーなら大丈夫よ。あんなに練習してたじゃない」
宿題をやる暇もないくらい、ハリーはウッドのしごきを受けていた。
はハーマイオニーと共にそんなハリーの宿題を手伝ったものだ。
「ハリーは十分努力してたわ。ね、だから大丈夫」
は少し迷ってから付け加えた。
「……頑張ってね」
中立でなければならないと言ってもこれくらいなら大丈夫だろう。
精一杯のの励ましを聞いてハリーは今日初めて顔をほころばせた。
「……ありがとう」
顔色は悪いものの笑顔を見せてくれたことにはほっとした。
「やあ、・嬢。僕はリー・ジョーダンだ。覚えてるかな?」
実況席の隣の席に座ると、実況席に座っていた細かい三つあみを縮らせた髪型の男の子が声をかけてきた。
「えぇ、汽車の中でお会いしたわよね。フレッドとジョージのお友達」
「その通り!覚えててくれて嬉しいよ。
僕が実況を首にならない限り、クディッチの試合を見る時は隣同士になるだろうから、改めてよろしくな」
「えぇ、こちらこそよろしくね。あ、敬語の方がいいかしら?」
忘れていたが、彼はより年上だ。
「いや、そのままの方がいい。
……にしても、君も随分と綺麗な顔してるよな」
「え?」
「去年と一昨年も僕が実況やってたんだ。1年の時なんかエリオットとエースに挟まれて実況したんだぜ。
自分が不細工だとは思ってないが君たちの隣にいるとさすがに…。
ま、眼福ではあるけどな」
因みにその時に「に手を出したら…」とさんざん脅されたのだが、それは黙っておくことにした。
「まあ、そうだったの。その節は兄がお世話になりました」
「え?!いや、あれは世話っていうか一方的に脅されたっていうか、とにかくお礼を言われるようなことは何も…」
にお礼を言われて、リーはわたわたと手を振った。
「お!もう始まるみたいだ」
助かった、というように言ったリーの視線の先では、真紅のローブに着替えたグリフィンドールの選手と、緑のローブに着替えたスリザリンの選手が入場してくるところだった。
「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました。
何て素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります」
「ジョーダン!」
「失礼しました、先生」
こんな調子でリーは面白可笑しく実況放送を続けた。
そんなリーを、の反対側でマクゴナガル先生が厳しい監視をしていた。
試合が終わった後、はリーを心から称賛した。
「面白い実況中継をありがとう。見ていてとても楽しかったわ。
こんな実況放送ができるなんてすごいわね」
「いや…僕は君の方が凄いと思うよ」
グリフィンドールが先取点を入れたり、スリザリンのシーカーが反則をしたり、試合は息をつく間もなく進んで行った。
そのたびに観衆は歓声を上げたりブーイングを起こしたり、と大盛り上がりだった。
相手チームが反則した時などリーの実況も中立を保つのが難しくなり、マクゴナガル先生に睨まれたりもした。
しかしそんな中、は微笑を湛えたままぴくりとも表情を動かさなかった。
ハリーがスニッチを取った時でさえ静かに拍手をしただけだった。
ただ、ハリーの箒が暴走をした時だけ一瞬顔を強張らせ、視線を落ち着かなくあちこちへ送っていたが、それもそう長い間ではなかった。
「君は普段は君のお兄さん達より表情が多いのに、彼らと同じように何も表情に出さなかった」
「…薄情だって思った?」
「いや。君も家の一員なんだって実感しただけさ。
後でマダム・ポンフリーの所へ行った方がいい。血が滲んでるよ」
そう言って、握りしめていたの手をポン、と叩いた。
自分の手を見ては苦笑する。
「あら…。私はやっぱり駄目ね」
「いや、それくらいでいいと思う。少なくても僕は、完璧でない方が好ましいと思うよ」
「……ありがとう」
幸か不幸か背を向けて歩きだしていたリーは、の華がほころぶような笑顔を見ることがなかった。
リー・ジョーダンがいつから実況放送をしていたのかもわかりませんでした。
よってこのサイトでは1年の時からやっていた、ということにします。
それにしてもマイナーキャラが出張りましたね…。
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