光の行方 〜 賢者の石編 〜 24
2人が笑い合って食堂に行こうとトイレの出口に向かおうとした時、とてつもない悪臭が漂ってきた。
「な、なに?この臭い」
「わからない…とにかく早く食堂に行きましょう」
そう言ってトイレの出口に向けた2人の目が映し出したのは、恐ろしい生き物だった。
墓石のような鈍い灰色の肌。
ゴツゴツした岩石のような巨体とその上にのる小さな禿げた頭。
短い太い脚とは対照的な異常に長い腕。
「トロール…!!」
思わずつぶやいたの声をかき消すようにハーマイオニーの恐怖でひきつった悲鳴が響き渡った。
どうやらトロールもこちらに気がついたようだ。洗面台を次々と壊しながら2人に向かってくる。
「ハーマイオニー、しっかりして!出口に向かって逃げるのよ!」
腰が抜けてしまったらしいハーマイオニーの肩を抱くようにして支え、はトロールの脇を抜けられないか隙を窺った。
しかしいくらホグワーツのトイレが広いとはいえ、あの巨体があっては横を通り抜けるのは難しい。
そのうえトロールは長い腕と棍棒まで持っているのだ。
なすすべもなくハーマイオニーと壁に張り付いて震えていると、ハリーとロンが飛び込んできた。
2人の顔は真っ青でお世辞にも頼りになりそうには見えなかったがは2人の登場にほっとした。
「ハリー!ロン!!」
「?!君もいたのか!」
その間にもトロールはとハーマイオニーに近づいてくる。
「こっちに引きつけろ!」
ハリーは無我夢中でロンに言うと蛇口を拾って力いっぱい壁に投げつけた。
その音に反応したらしく、トロールはハーマイオニー達の1メートル手前で立ち止まりハリー達の方へ向き直った。
「やーい、ウスノロ!」
今度はロンが反対側でトロールの意識を引きつける。
その間にハリーはとハーマイオニーに駆け寄ってきた。
「早く、走れ、走るんだ!」
「頑張って、ハーマイオニー!」
とハリーはハーマイオニーに向って叫びながらドアの方に引っ張ろうとしたが、ハーマイオニーは動けなかった。
しかしその叫び声とこだまはトロールを逆上させてしまったらしい。
トロールは唸り声をあげて一番近くにいた逃げ場のないロンに向かって行った。
「!ハリー?!」
それを見たハリーはが止める間もなく走って行って後ろからトロールに飛びつき、腕をトロールの首根っこに巻きつけた。
「危ないわ!無茶よ!!」
しかしにはどうすることもできない。
トロールはハリーのような小さな子供が首にぶら下がることくらい何も感じなかった。
しかし偶然、ハリーの手にあった杖がトロールの鼻の穴を突き上げたのだ。
トロールは痛みに唸りながら棍棒を振り回した。
ハリーは落とされてなるものかと、渾身の力でしがみついていた。
「ハリー!!」
ハーマイオニーは恐ろしさのあまり床に座り込んでいた。
はハリーを助けたかったがトロールが暴れるため近寄ることができず、ハーマイオニーと震えているしかなかった。
そんな中、突然ロンが杖を取り出し、呪文を唱えた。
「ウィンガーディアム レビオーサ!」
それは、その日の授業でやった物を飛ばす魔法だった。
棍棒がトロールの手から飛び出し、空中を高く高く上がって、ゆっくり一回転してからボクッと嫌な音を立てて持主の頭の上に落ちる。
トロールはフラフラしたかと思うと、ドサッと音を立ててその場にうつぶせに伸び、その衝撃で部屋中が揺れた。
はハーマイオニーと抱き合うような形で茫然とそれらを見ていたが、ハリーが立ち上がるのを見て我に返り、慌てて駆け寄った。
「ハリー、ロン!!」
「!大丈夫?怪我はない?」
「えぇ、私たちは大丈夫よ。あなたたちこそ…!」
ハリーはまだブルブル震え息も絶え絶えだった。
ロンは茫然としていた意識をの呼び声で取り戻し、振り上げたままだった手をようやく下ろしたところだった。
だがの質問に――ひきつってはいたが――笑顔を浮かべて答えた。
「あー、僕たちも怪我はないよ」
「心臓が止まるかとは思ったけどね」
「よかった…!!」
「「うわ!」」
はそんな2人に同時に抱きついた。
「本当に無事でよかった!私、脅えてることしかできなくて…」
突然抱きつかれて慌てていた2人だったが、が震えていることに気がついた。
「…」
「助けてくれてありがとう」
安心したためか少し潤んだ瞳でに至近距離で見つめられ、ハリーとロンの頭は真っ白になった。
そんな2人を我に帰らせたのはようやくしゃべれるようになったハーマイオニーの声だった。
「これ……死んだの?」
「い、いや、ノックアウトされただけだと思う」
慌てて答えてハリーはトロールの鼻から自分の杖を取り出した。
それを見ながらハーマイオニーはフラフラと立ち上がりこちらに近寄ってきた。
「危ない!!」
それをみたが、突然叫んでハーマイオニーを突き飛ばした。
その瞬間、さっきまでハーマイオニーがいた空間にトロールが壊しかけていた壁が崩れ落ちてきた。
その場にはハーマイオニーを突き飛ばしたがいて――。
「!!」
自分の名を呼ぶ悲痛な声を聞きながら、は意識が薄れていくのを感じた。
小さくても勇敢な男の子たち。
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