光の行方 〜 賢者の石編 〜 15
背中に衝撃を感じたと思った次の瞬間、は水の中にいた。
は驚きはしたものの、パニックには陥らなかった。
船の明かりが見えていたし、水泳も兄に習ったことがあったからである。
明かりを目指して浮き上がろうとした時、何かに足をつかまれた。
「!?」
これにはも慌てた。
足をつかんだ『何か』を振りほどこうとする。
しかし『何か』は、ほどけるどころか増えていく。
それは足から順に腰、腕も拘束した。
そうしている間にも体は沈んでゆき、船の明かりも見えなくなった。
酸素が足りなくなり、このまま死ぬのだろうか、と考えた瞬間目の前に現れたのは…
「極夜?」
黒猫だった。
思わず名前を呼ぶ(実際にはごぼごぼと空気が漏れただけだったが)と、突然極夜の体が光りだした。
その光にも巻き込まれ、眩しさに思わず目を閉じる。
目を開けた時には尻尾がはえていた。
「え?」
水の中だと言うのに自分の戸惑った声が聞こえ、さらには戸惑う。
さっきまで感じていた息苦しさもなくなっている。(実際もう死ぬかと思った!)
いつのまにかを拘束していた『何か』もなくなっていた。
そして、この異変の原因と考えられる黒猫のかわりに、目の前にいるのは真っ黒い小魚。
「もしかして、あなた極夜?」
は恐る恐る魚に聞いた。
魚はうなずいた――というか体を縦に振った。
常識に照らし合わせてみると明らかにおかしいことなのだがは信じたようだ。
「これもあなたがやったの?」
これ、と言いながらは自分の足のあった場所にはえている魚の尻尾を動かした。
魚――極夜はまたうなずいた。
「助けてくれた…のよね。ありがとう」
戸惑いながらもお礼を言い、あたりを見渡したところで不思議な生物を発見した。
どうやらさっきを拘束した『何か』はそれのようだ。
それの生物の肌は灰色味を帯び、ボウボウとした長い暗緑色の髪をしていた。
目とあちこち欠けた歯は黄色く、正直なところそれは不気味な生物だった。
しかし彼らからは敵意が感じられなかったため、は彼らを恐ろしいとは思わなかった。
基本的には外見に対して無頓着なのである。
「あなた達は誰?私に何か用事でもあるの?」
その生物は口々に答えた。
「用?あるとも」
「我らはお前を待っていた」
「なぜ我らを訪ねなかった」
「毎年一度は来ると約束したのに」
「8年前から一度も訪れなかった」
「なぜだ」
口々に言われるその言葉を聞いては混乱した。
「ちょっと待って、私はここに来たのは初めてよ。誰かと間違えているんじゃない?」
「そんなはずは無い」
「髪の色を変えたところでその力は変わっていない」
「髪の色?」
その言葉を聞いては1つの可能性に気がついた。
「もしかしてお母様、瑠璃と間違えていない?」
は瑠璃に生き写しだと、生前の瑠璃を知る人からは何度も言われた。
違うのは髪と目の色だけだ、とも。
そしてちょうど8年前に瑠璃は死んだのだ。
「お前がルリではないのか?」
「残念ながら諸君らの友、ルリ殿は8年前に亡くなっておるのじゃよ」
少しオリジナル設定など入ります。ご了承ください。