光の行方 〜 賢者の石編 〜    1


若干少女趣味な傾向があるものの、上品で美しい調度品が並んだ広い部屋。

そこに大音量で目覚まし時計の音が鳴り響いた。

かわいらしい見た目であったがそれは素晴しく大きな音がでる、なかなか有能な物のようだ。

20人中19人は起こすことができるだろう。

しかし目覚まし時計にとって不幸だったのは、その持ち主が20人中の1人に分類される人間であった、

ということだ。

結局その勤勉な目覚ましは30分間働き続けるはめにる…。





「な、なんとか間に合ったわ…」

目覚ましがなり始めてから40分後、勤勉な目覚まし時計の持ち主、はフードを深くかぶり

薄暗いパブ――漏れ鍋という名前である――の中で息を切らしていた。

「また寝坊なされたのですか?」

カウンターの向こうからトムが笑いながら声をかけた。

「そうなの。今日はみんないなくって…」

「ベッキーが悪いのでございます!ベッキーがお嬢様を起こせばよかったのでございます!」

突然誰もいないはずの空間からキイキイ声が聞こえ、トムはぎょっとした。

「そんなことないわ!起きれなかった私が悪いんだもの。あなたのせいじゃないわ」

「そこに誰かいるんで…?」

「忘れてた!しゃべっちゃ駄目だったんだわ!あ、怪しいのじゃないから安心してね。

姿を隠した屋敷しもべ妖精のベッキーがいるのよ」

「屋敷しもべ妖精が?珍しいですねえ。でも何でこんな所に?」

「お父様とお兄様の言いつけよ」

はため息をついた。

「一人でも大丈夫って言ってるのに…」

「それだけお嬢様が大切なのですよ」

「でも、もう少し信用してくれてもいいと思わない?

だってお守りの人に会うまでここの店から動かない約束もしているのよ」

そう言ってもう一度がため息をついた時、店にとてつもなく大きな男が入ってきた。

それを見てすかさずトムは声をかける。

「大将、いつものやつかい?」

「トム、だめなんだ。ホグワーツの仕事中でね。なんと。こちらが、いや、この方が…」

ハグリットは眼鏡をかけた、がりがりにやせた男の子の肩をパンパン叩きながら言った。

からも見えた。額に傷がある!

「やれ嬉や!ハリー・ポッター…何たる光栄」

トムのその声にパブの中が一瞬静まり返った。

そして皆興奮しその男の子の周りを取り囲んだ為、からはハリーがまったく見えなくなった。

「トム、私中庭で待ってるわ。ハグリットに伝えて頂戴。大丈夫よ、ベッキーがいるもの」

何かを言いかけたトムをさえぎりはそっと店を出た。





「あのハリー・ポッターをマグルに預けた理由がよく分かったわ…。」

店の外にでたはそっとつぶやいた。

「生まれた時からあんな扱いを受けていたら嫌なやつになっていたでしょう。

ハリー・ポッターにまつわる謎に興味はあるけど、特別扱いはしないことにするわ。

皆が皆特別扱いしたらハリーも疲れちゃうもの。」

そこで、ふっと何かに気がついたようには顔を上げた。

「ところで、ベッキー。今日はごめんなさいね。

あなたには仕事があるのにこんなくだらないことに時間をとらせちゃって…」

「お嬢様はそんなことをおっしゃらないのです!これはベッキーにとって大切なお仕事なのです!」

ベッキーは声を出してはいけないことを一瞬忘れて叫んだ。

「ごめんなさい…じゃないわね。ありがとう」

そのことをも気にせず、そう言ってベッキー(がいるであろうと思われる所)に向かって

笑いかけた時、ハグリットが店から出てきた。

「じゃあ、行くわね。ありがとう」

「はい、お嬢様。お気をつけて」

「おう!久しぶりだな!ところで何でマントなんかかぶっちょるんだ?」

ベッキーが消えるパチンという音にかぶるようにしてハグリットの声が聞こえた。

「仕方ないじゃない。あなたに会うまで顔を隠せってお父様達に言われてたのよ」

これでようやく脱げるわ、といいながらフードを外した。

それを見てハリーは息を呑んだ。

日の光を集めたような美しく輝く金色の長い髪。

雪のように白く輝く滑らかな肌。

花びらのような紅く艶やかな形の良い唇。

光の加減によって緑にも青にも見える輝く大きな瞳。

ハリーは思った――こんな綺麗な人、見たことない!

ハリーが呼吸すら忘れて見ほれてることに、当の本人はまったく気づかず自己紹介を始めた。

よ。よろしくね。」

しかし、ハリーの反応が無い。

ハリーはその鈴を転がしたようなかわいらしい声を音として聞くだけで精一杯で、意味まできちんと

理解できなかっただけなのだが。

「あの、ハグリットから聞いていない?マントなんかかぶってたけど怪しい者じゃないのよ。

あなたと同じホグワーツの一年生。今日は学用品を買いに一緒に行くことになってたんだけど…」

はハリーが自分を警戒していると思ったらしい。

必死に訳を説明するがやはり反応のないハリーを見て困り果てたようにハグリットを見上げた。

本人はまったくわかってなかったがハグリットにはハリーの態度の訳が解っていた。

に初めて会った人はたいていこのような反応をするからだ。

特にハリーは――ハグリットは考えた――あのような豚どもと暮らしていたのだ。衝撃は大きかったに違いない。

「薄暗い店から急にお日様の下に来たからちょっと目がくらんだだけだよな?な、ハリー?」

そう言って背中を叩かれると、ようやくハリーは我に返った。

「あ、あぁそうなんだ。僕はハリー・ポッター。」

それを聞いてはほっとした顔をして笑った。

「よろしくね」

「こちらこそよろしく」

ハリーがちょっと顔を赤らめて握手したのを見てハグリットは笑った。

「ほら、もう行くぞ。買い物がごまんとある。」







ハリーとの出会い編。ちなみに屋敷しもべ妖精はベッキーの他にもいます。
ヒロインはかなりのお嬢様です。


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