04. A boy of bright green hair
若草色の髪の男の子
「チーグルってやつが泥棒だって証拠を探すんだよ!」
食糧泥棒に間違えられてかんかんに怒ったルークのこの発言で、少し寄り道をしてチーグルがいるという森に行くことになった。
その森を進んでいくと、若草色の髪と目をした優しそうな男の子が、魔物に囲まれているのが見えた。
昨日ルークが食糧泥棒と間違えられて連れて行かれた、ローズ邸にいた男の子だ。
「あれ、あの子昨日の…」
「危ない!」
魔物を見て思わず硬直してしまった私とは対照的に、ルークはその男の子に向かって走り出した。
いくらルークが走るの早くても、間に合わないのでは…なんて思ってひやっとした瞬間、男の子が不思議な魔法?を使って魔物を倒した。
しかしその直後、その男の子はうずくまってしまい、私も慌てて駆け寄る。
「おい、大丈夫か」
「だ、大丈夫です。少しダアト式譜術を使いすぎただけで……」
さっきの魔法は「ダアト式譜術」というらしい。
強力だがずいぶん体に負担がかかる術であるようだ。
そう思いながらまだ顔色の悪い男の子の顔を覗き込むと、私たちの顔を見て少し驚いたように言った。
「あなた方は、確か昨日エンゲーブにいらした……」
「ルークだ」
「ルーク……。古代イスパニア語で聖なる焔の光という意味ですね。
いい名前です」
「へーそうなんだ。ルークの髪、暖かな朱色だし、ぴったりだね」
私がそう言った途端に照れたようにそっぽを向いたルークを見て、くすくす笑っていると、男の子が不思議そうにこちらを見た。
「あなたのお名前もうかがっていいですか?」
「あ、ごめんなさい。っていいます」
「さん…ですか。綺麗な響きの名前ですね」
「ありがとう」
うーん、やっぱりこっちの人たちが呼ぶと、発音がカタカナっぽいな。
「」って呼んでもらうのは無理かな。
なんて私の思考が横道にそれて行っている間にも、話は進んでいた。
「僕はイオンと申します。
ところで、あなた達はこんな所で何をしているんですか?」
「チーグルってやつが犯人だって証拠を見つけてやるんだよ。
濡れ衣着せられて大人しくできるかっつーの」
話しているうちにその怒りを思い出したのか、ルークがまた不機嫌そうな顔で言った。
「誤解も解けたんだし、いいじゃない」
「よくねぇ!」
「もう…。ルークったら昨日からずっとこの調子なのよ。
そういえば、あなたは何でこんな所にいるの?」
「僕は、エンゲーブでの盗難事件が気になってちょっと調べていたんですよ。
チーグルは魔物の中でも賢くて大人しい。
人間の食べ物を盗むなんて、おかしいんです」
「へえ…。じゃあ私たちと目的地は一緒なのね」
「仕方ねぇ。おまえも付いてこい」
「え、よろしんですか?」
「私は構わないけど、ルーク大丈夫?
イオン君まだ顔色良くないし、私は自分の身を守ることすら危ういのよ。
負担が全部ルークにかかっちゃうけど…」
「仕方ねぇだろ。村に送ってったトコで、また一人でのこのこ森へ来るに決まってる」
「……はい、すみません。どうしても気になるんです。
チーグルは我が教団の聖獣ですし」
我が教団の聖獣?教団ってことは、イオン君は宗教関係者なんだ。
うーん、でも確かにイオン君なら、聖職者とか似合うかも。
「ほれ見ろ。それにこんな青白い顔で今にもぶっ倒れそうな奴、ほっとく訳にもいかねーだろーが」
「あ、ありがとうございます!ルーク殿は優しい方なんですね!」
「だ、誰が優しいんだ!今更足手まといがもう1人増えても変わらねぇってだけだ!ア、アホなこといってないで大人しく付いてくればいいんだよ!」
「はい!」
「あ。あと、あの変な術は使うなよ。おまえ、それでぶっ倒れたんだろ。
魔物と戦うのはこっちでやる」
「守って下さるんですか。感激です! ルーク殿」
「ちっ、ちげーよ!足手まといだっつってんだよっ!大げさに騒ぐなっ!
それと俺のことは呼び捨てでいいからなっ!行くぞ!イオン」
「はい!ルーク」
ルークは耳まで真っ赤にして、先頭をずんずん歩きだした。
それを追いかけるイオン君に並んで、小声で話しかける。
「ね、ルークって口は悪いけどすっごく優しいよね」
「はい!さんにもご迷惑をおかけします」
「私は何もしてあげられないわよ。
譜歌を少し歌えるだけで、本当に戦えないの。だから今までもずっとルークに守ってもらってたんだ。
何も知らない、何もできない、何も持ってない。
足手まといでしかない私を、文句を言いながらも見捨てない。
本当に、ルークは優しいの」
本当は私がルークを守らなきゃいけないのに。
これじゃあローレライに怒られちゃうなぁ。
守り役失格!とか言って、突然殺されたり魂抜かれたりしなければいいんだけど…。
「さん…」
「あ、呼び捨てでいいよ」
「じゃあ、さんも僕のことイオンって呼んでくださいね」
「分かった。じゃあしばらくの間よろしくね、イオン」
「こちらこそよろしくお願いします、」
「お前ら何やってるんだ!早く来い!」
「「はい!」」
私たちは同時に返事をして、もう一度顔を見合わせて笑い合ってから、ルークに追いつくために足を速めた。
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