03. We got into a carriage

馬車に乗りました

その後は特に問題もなく、たまに襲ってくる魔物をルークが撃退して、私は陰に隠れてやり過ごしていたのだが。

「くそ…!」
「ルーク!!」

運悪く、魔物の団体にぶち当たってしまった。
今までは何とかなっていたが、このままではルークが危ない。

(ローレライ!あんたの愛し子であるルークが危ないのよ!お願いだから何とかしてよ!!)
他力本願もいいとこだがどうしようもない。
心の中でローレライに向って叫ぶと、頭の中からどっと情報が出てくるような感覚に襲われた。

これは…歌?

まさか、この場でのんきに歌えってのか。
そんな馬鹿な。
それとも魔物のおとりになってルークだけでも逃がせって?

―――譜歌。

ポン、と頭の中にその言葉がわき出てきた。
譜歌…魔法のような効力のある歌。

これがローレライがルークを守るためにくれるって言ってた「僅かばかりの知識と力」とやらだろう。

そこまでわかれば恥ずかしいなんて言ってる場合ではない。
早くルークを助けなければ。
すうっと息を吸い込んで思いきって歌いだした。


結果は、自分でも驚くくらい効果のあった歌に腰を抜かして、ルークに笑われたこと以外はうまくいった、とだけ言っておく…。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


渓谷を抜けたところで運よく辻馬車に出会って首都まで乗せてもらうことになった。しかし、そこで問題が発生した。

「首都までとなると一人12000ガルドになるが持ち合わせはあるのかい?」
「12000ガルド?!」
「なんだ、安いじゃん。首都に着いたら親父が払うよ」
「え?そうなの?そういうものなの??」

1ガルドがどれくらいの価値があるのか分からないが、この世界の住人であるルークが安いというのなら安いんだろう。
そう思ってほっと溜息をついたのだが、世の中そう甘くはない。

「そうはいかないよ。前払いじゃないとね」
「えー?!ルーク、お金持ってる?」
「持ってるわけねぇだろ!」
「だよね…私持ってるかな?」

体中探して財布らしきものを引っぱり出した。

「これで…いくらあるの?」
「……あんた達どれだけ世間知らずなんだ?こんなんじゃ全然足りないよ」
「えー!ど、どうしよう?」
「俺に聞くな!屋敷の外に出たのは初めてなんだよ!」
「私だってこの世界は始めてよ!!」

混乱して2人でアワアワ言っているとおじさんがふとルークのしていた腕輪に目をとめた。

「おや?あんたいい腕輪してるね。
…うん、これくれたら2人を乗せてもいいよ」
「本当か?あー、これで靴を汚さずにすむぜ」
「ルーク、いいの?」
「あんなの屋敷に腐るほどあるしな」

「…ルークってすごいお坊ちゃまだったりする?」
「あ?まあな」
「やっぱり!安全のために屋敷から1歩も外に出たことないなんて、ものすごい箱入り息子だもんね」
「うっせぇ!」
「ふふ。あなたのお父さんとお母さんはよっぽどあなたが大切なのね」
「…どうだかな」
「え?」
「何でもねぇよ」
「そう?…じゃあ着くまで一眠りしようか」
「そうだな。あー椅子が固くてケツ痛ぇ」

なんて文句を言っていたが、疲れが出たのか2人して爆睡。
向かっていた首都と言うのがルークの家のあるキムラスカではなく、敵国のマルクト帝国の首都だったことが判明した時には手遅れだった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


エンゲーブは農村、と言う感じの村だった。
この世界は全体的にこんな感じなのかと思ったが、ルークのセリフでそれが間違いだということがわかった。

「なんか、貧乏くせぇとこだな。
屋敷なんかないし、小屋に毛が生えたような建物ばっかじゃんかよ。それに動物とかうじゃうじゃいてうぜぇ」

「へえ、この世界全体がこういう感じってわけじゃないんだ」
「当たり前だろ!」

「だったら、ここは農作物を作ったり動物を飼育したりしている村なんじゃない?」
「第一次産業ってやつか?」
「そうそう。華やかさはないけど、とっても大切な仕事よ。彼らがこうして食料を作ってくれてるから私たちは食事が食べれるんだもの」
「はあ?こいつらから食料を分けてもらった事は一度もねえよ」

「うーん、ここで作られたものではないかもしれないけど、誰かがこうして育ててくれた物を食べているということに変わりはないでしょ。
ルークは直接材料を買ったことはないのかもしれないけど、こういう人達が作った食材で作られた料理を買って食べてるのよ」

「………。」

「料理を食べるためには誰かが食材を料理しなければならない。
料理をするには必要な食材を揃えなければならない。
食材をそろえるには誰かが食材を作らなければならない。

お金さえあれば何もないところから料理を取り出せるってもんじゃないわ。
ルークは屋敷から出たことないお坊ちゃんだったから実感がわかなかったのかもしれないけど、ルークが普段何気なく食べてた料理はこうして汗水流して働いている人がいるから口にできる物なのよ。

まぁこの人達も、ルークのようにそれを買う人がいるから生活が成り立ってるんだから、ギブ&テイクってやつだけど。
こういう人達がいるってこと、第一次産業がただ貧乏くさいだけの仕事ってわけではないってことは知っておいてほしいな」


「………ああ」
「へへ、一つお勉強になったね、ルークくん」
「っせーよ」



こんな風にほのぼのと2人でエンゲーブを見てまわっていたのだが。



「食糧泥棒を捕まえたぞ!!」
「俺は泥棒なんかじゃねぇっつーの!!」



…ちょっと目を離した隙に何やってんのよ、ルーク…。
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