06. It has been caught why

なぜか捕まっちゃいました

ライガと不可侵条約を結んでチーグルの住処に戻る途中、イオンの護衛役のアニスという少女と、昨日ローズ邸にいたジェイド・カーティスと名乗る軍人が現れた。
どうやらイオンを探しに来たらしい。
そのまま連れて行かれそうになったから事情を全部話して、チーグルの住処に行くことは許可してもらった。

町への連絡はアニスがしてくれることになった。
イオン懐から財布らしきものを取り出して、ローズさんへお金と伝言を届けてくれるよう、アニスに頼んだのだ。

確かにローズさんならうまくやってくれるだろう。
それにしても、あんな大金持ち歩いてるなんて、やっぱりイオンはいいところのお坊ちゃんに違いない。

そんなわけで特に問題もなく(一族に迷惑をかけた償いとしてミュウがルークの召使になるってイベントはあったが)、この一件はこれで解決!と足取りも軽く森を抜けたのだが。

「そこの二人を捕らえなさい。正体不明の第七音素を放出していたのは、彼らです」
「へ??」

なんかよくわかんないけど、私とルーク、捕まっちゃったみたいです。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


ジェイドさんの話によると、第七音素の超振動とやらが起こって、私…っていうか本来のこの体の持ち主とルークは私がこの世界で目を覚ました場所にワープしたらしい。
その際に国境を越えてしまったから不正に侵入したってことで問題になっているそうだ。

「へー、そうなんだ」
「何他人ごとみたいなこと言ってるんですか」
「へへ〜、イヤミが通じてないよ、大佐」

溜息をついたジェイドさんをアニスちゃんはにまにまと見た。

「はぁ、もういいです。それで、あなた達は何者なんですか」
「俺はルーク・フォン・ファブレ。おまえらが誘拐に失敗したルーク様だよ」
「キムラスカ王室と姻戚関係にあるあのファブレ公爵のご子息……という訳ですか」

「ええー?!」

思わず大声をあげた私にその部屋にいた全員がぎょっとした顔をした。
でも今はそれどころじゃない!

「ルーク、あなた王室と婚姻関係にあるって、いいところの坊ちゃんなんてレベルじゃないでしょ?!ま、まさか王位継承権なんて持ってたり…」
「あ?まーな」

ギャー!!

「ちょっとちょっと、私ルークと一緒に帰ったらまずくない?さっきの話聞いてると、ワープしちゃったのって私のせいなんでしょ? もしかしたら私ってば王族を誘拐した犯人にされてない?あ!しかもここって王政の国なんでしょ?!もしかして不敬罪とかあったりする? まずいじゃんやばいじゃん私!今までの態度はどう甘く見ても不敬罪のオンパレードだよ! ルーク!いや、ルーク様!頑張ってこれから敬語使うから、今までの態度のことは忘れて!あ、いや、忘れてください!」

「お、落ち着け!俺がいいって言ってんだから敬語なんて使うな。それから、ヴァン師匠に襲いかかった時のことだってお前は覚えてないんだから、んなもんで捕まったりしないように俺が父上に口添えして、俺の屋敷でメイドとして雇ってもらえるよう頼んでやる。だから大丈夫だ」

「ほ、本当?」
「ああ」
「よかったぁ、ルークありがとう!!」
「おわ?!」

思わず感激してルークに飛びつくと、凄い力でぐいっと引き離されて一瞬の浮遊感を感じたのち、どさっと地面に落下したのがわかった。
すうっと意識が遠のいていくなか私が最後に見たのは、心配そうな顔で駆け寄ってくるルークと驚いた顔をするアニスちゃんだった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


気がつくと、私はベッドに寝かされていた。
周囲を見渡すと、すぐ横に座ってうつらうつらしているルークが目に入った。

「ルーク…?」
「ん…?気がついたか。まったく、世話焼かせやがって」

文句を言いつつもほっとした顔をしたルークの後ろから、アニスちゃんがぴょこっと顔を出した。そのさらに後ろにはイオンも見える。

「あ、気が付きました〜?ルーク様を助けなきゃって思って思わず投げ飛ばしちゃったんですぅ。ごめんなさ〜い」
「僕からも謝ります。悪い子じゃないんですが、どうも力加減がわかってなかったみたいで…」

えーっと、つまり私はあのアニスとかいう女の子に投げ飛ばされたらしい。
す、すごい。
この体、細いけど身長は元の私より高いのに。

「可愛い顔して意外と力持ちなのねー…」

ほけーっと呟くと奇妙なものを見るような目でイオンとルークが私を見たのがわかった。
な、何さその目は。

「きゃわーん、可愛いってほめられちゃった」
なんとなく語尾にハートマークがついてるような話し方をする子だ。
でも、なんて言うかものすごい分厚い猫の皮が見える気がするのは気のせいだろうか…。
そんなことを考えていると、ルークに怒鳴られた。

「何ボケたこと言ってんだよ!お前あいつに投げ飛ばされたんだぞ!ここは怒るところだろうが!」
「でも、わざとじゃなかったんでしょ?」
「わざとじゃなくてどうやったら人を投げ飛ばすことになるってんだ!」
「いやいや、そうじゃなくて、私があんなに吹っ飛ぶとは思わなかったんでしょ?」

アニスちゃんに聞くと、少し驚いたのがわかった。
「だって意識失う寸前に、アニスちゃんの驚いた顔見ちゃったもん。悪気はなかったんだよね。ただ、予想外に私が軟弱だっただけで」

正しくはこの体を使いきれていないせいで、かもしれない。
だってこの体、意外と鍛えられてるっぽいもん。

「それに謝ってくれたし。だからもう怒ってないよ」
「……バカみたいなおひとよし。あの人たちみたい」
「え?」

アニスちゃんが何か低くて小さな声で言ったが、聞き取れなかった。
でも一瞬、泣きそうな顔しなかった?

「ううん、って優しいね〜。アニス感激〜!」

一瞬被ってた猫なくなった?って思ったんだけど、すぐに分厚い皮がかぶられた。
うん、あれはきっと気のせいじゃなくて本当に猫被ってんだろう。

「あ、!私のことも、呼び捨てでいいからね!行きましょ、イオン様、ルーク様!」
ベッドに座ったまんま1人で納得していると、アニスに促されて3人は部屋から出て行こうとした。
「ま、待ってよ、私も行く!」
「お前はもう少し寝てろ」
慌ててベッドから降りようとしたが、ルークに止められた。
「これから俺は大切な話とやらを聞いてくるからお前はここで待ってろ」
「えー?何で?私は仲間はずれ?」
「すみません、国家の大事にか関わることなので一般の方にはお話できないのです」
「国家の大事?!」

こりゃまた随分話が大きくなったもんだ。
それでメンバーを改めて考えてみた。

ルークは王位継承権もあるらしいお貴族様らしいし、イオンはよく知らないけど周りの態度見てるとかなり偉い人っぽいし、ジェイドさんも大佐とか呼ばれてる責任者っぽいし…。

うん。私、完璧に場違いだ。
下手に重要なこと聞いて「生きて帰すわけにはいかなくなった」とか言われたら嫌だし、ここは諦めよう。
我慢してくれ、私の好奇心。

「分かった。じゃあ、私眠いから此処で寝てるね。暇だったらその辺散歩してもいい?」
「構いませんよ」

笑って頷いてくれたイオンにお礼を言って布団に潜り込む。
「ちっ、呑気な奴」
ルークの独り言は聞かなかったふりをして、目を閉じた。
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