01. It was appointed by his guardian
(彼の守護者に任命されました)
「それでさぁ、あの髭がうざいのはもちろんなんだけど、ティアの反応もどうかと思うのよね!
だってルークは王族なのよ?なのにルークに前線に立って戦わせたりしてどっちが世間知らずだっての!
あぁ、早くあんたにもやってみてほしい!このテスト終わったら貸すから、そしたら存分に語り合おう!!」
「ありがとう…」
朝っぱらから熱く語るこの子は、私の友人。
最近『TALES OF THE ABYSS』というゲームにはまったらしく(すでにクリア済みらしい)しょっちゅうこのように熱く語っている。
だが、ネタばれを恐れて詳しいところは話さないため、私としては「へー、ふーん、そうなんだ」という反応しか返せない。
ああ、それにしても眠い…。
昨日は今日のテストのために寝てないからなぁ。
「!!」
あくびをしながら角をまがったとたん、体が何かに跳ね飛ばされた。
悲鳴のような私を呼ぶ声を聞きながら、私の視界は真っ暗になっていった…。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【起きるがいい、異界の娘よ】
「ん…?あれ、ここは?」
頭の中に直接響くような声に目を開けると、そこは壁も床もない真っ白な空間だった。
必死にそれまでのことを思い出して一つの結論にたどりつく。
「もしかしてここ、天国?」
【似たようなものだ。お前はここから遠く離れた世界で死んだ。だが、お前は稀に見る丈夫な魂だったらしく、形を保ったままここに流れてきたのだ。
それを我が拾った】
声は頭に響いてくるのだが、姿は何も見えない。
もしかしてこの声が神様なんだろうか。
「拾ったって犬猫じゃないんだから…」
いや、神様にとっては同じなのか?
【我は神ではない。第七音素意思集合体…人間たちがローレライと呼ぶものだ】
「ローレライって…確か綺麗な歌声で船乗り達をおびき寄せて海…川?に沈める魔女、だっけ?」
【お前の世界のローレライは知らん】
「ん?お前の世界って、まるでここが世界が違うみたいな言い方…」
【ここはお前のいた世界ではない。お前は1度死んで我に魂を拾われたのだ。我が拾わなかったらあのまま消滅していたぞ】
「ありがとうございます…?」
感謝しろ、と言わんばかりの言葉に混乱しながらもとりあえずお礼を言っておく。
【お前を拾ったのには理由がある。実はこいつの魂が、疑似超振動を起こした際に消滅してしまってな。今は体は生きているがこのままほっておくと体も死ぬ。
この女が死んでも我には関係ないのだが、そうなると我が愛し子が責任を感じてしまう。そこで都合よく流れてきたお前を拾ったのだ】
ローレライは、こいつと言いながら美少女の映像を、我が愛し子と言いながら赤毛の美少年の映像を、何もない空間に映し出した。
【お前はこの女の体に入って我の愛し子を守れ。そして我を解放せよ】
「なんかすっごい横暴…」
【拒否すればお前は消滅するだけだぞ】
「わかった、わかりました!ありがたく第2の人生を受け取ります!」
【それでよい。では我が愛し子を守るために僅かばかりの知識と力を与えよう。それとこれを持って行け】
その瞬間目の前に透明な石が現れた。ネックレスのように鎖が付いている。
【それは保険だ。それに出来る限り音素を集めろ】
「音素?」
【…とりあえず肌身離さず持ってろ。それが勝手に集めるはずだ】
こいつ…さては説明がめんどくさくなったな。
【ではいけ。忘れるな。お前を拾ったのは我が愛し子を守らせ、我を解放させるためなのだぞ】
そんな言葉を最後に私の意識は遠のいた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おい、起きろよ!」
「ん?いたた…」
「だ、大丈夫か?」
目が覚めて体を起こそうとすると、体の節々が痛んだ。
固い床で寝てしまった時のあの感じだ。
思わず声を漏らすとそれまで機嫌の悪そうな顔で私を起こそうとしていた赤毛の少年…青年?が慌てたように心配そうな顔で私を覗き込んだ。
「大丈夫…ありがとう」
「れ、礼を言われる筋合いはねぇよ。
それよりここはどこだ?お前は何者なんだよ?」
一瞬照れたような顔をした少年は、はっと我に返ったように私に詰め寄ってきた。
「えーと…?」
その質問にそう言えばなにがあったのかと、記憶を掘り起こしてみて答えを見つける。
そうだ、私はこの体の持ち主の代わりにこの少年を守らなければいけないんだ。
でも、私この子について何にも知らないんだよね。
それどころかこの世界についても何も分からないし…そうだ!
「ここはどこ?あなたは?…私は、誰?」
「お、お前まさか…」
「うん…記憶がないみたい」
我ながら胡散臭い言い訳だな、なんて思いながら少年の顔を窺うように見上げると、少年がギュッと唇をかみしめるのが見えた。
「そうか…じゃあ、お前、一緒に来るか?」
「え?」
「記憶をなくす前のことを言われたってどうしようもないだろ?」
「う、うん…」
すっごく私にはありがたい申し出だけど、いいのか?
この少年、ずいぶん心が広いんだな。
「じゃあ、俺とお前はこれが初対面だ。二度とヴァン師匠を襲わないと誓うならそのことは水に流してやる」
「うん!約束する!」
偉そうに言う少年の言葉に慌てて頷く。
なんだ、この少女は誰かを襲ったのか。見た目によらず怖い子なのか?
「よし。俺の名前はルーク。ルーク・フォン・ファブレだ」
「私の名前は……」
やばい。名前すら知らない。
それぐらい教えてくれてもいいのに、ローレライの馬鹿!
「…分からないからって呼んで」
「?」
考えてみたら、体が変わっても私は私。この少女のふりをする必要はないよね。
「うん。今日から私はとして新しい人生を歩むことにする!」
「分かった。よろしくな、」
「うん。こちらこそ!」
ちょっと偉そうだけど、護衛対象が感じのいい少年でよかった。
そんなことを考えながら私は赤毛の少年…ルークと笑顔で握手をした。
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