「ダイアゴ……くちゅん!」
……あら?


藁しべ長者?


記録者の館では大混乱が起きていた。
「おい、あいつ、今ちゃんと言えてなかったよな?!」
「そうだね。途中でくしゃみをしてたから…」

取り乱しているのは、金の髪と緑にも青にも見える変わった瞳を持った少年、エリオットと、銀の髪と赤い瞳の少年、エース。
どちらも芸術品のように綺麗な顔をしている。

普段は子供らしくなく落ち着き払っている彼らが、こんなにも取り乱したところを見せるのは極めて珍しいことであった。
原因は彼らが何よりも大切に思っている妹のくしゃみ。
くしゃみ一つで何を…と思うかもしれないが、これは大問題なのである。
フルーパウダーを使っている最中にくしゃみをしてしまったのだから。
つまり、彼らの大切な妹はどこに行ったのかわからないのだ。

「大丈夫だ。今日髪を結んだリボンに、居場所が分かるよう魔法をかけてある」
迷子になった時の為に、と思って準備しておいたのだが、こんな所で役に立つとは思わなかった。
そう言うのはエリオットが大人になったらこうなるだろう、と思わせる、整った顔をした父、ソード。

「さすが父上!」
「では早く追いかけましょう!」
3人は急いで妹の居場所に向かった。


+ + + + +


「このあたりにいるはずなんだが…」
「どこにもいないな」
「! 父上、まさかあのリボンは…?」
「………どうやらそのようだ」

その場には彼らの探し人はいなかった。
代わりにいたのは赤いリボンをつけた小さな女の子とその母親。
「失礼。このリボンは?」
軽くリボンに触れながら問う。さりげなくリボンにかけていた魔法も解いた。

ソードの問いに母親は顔を真っ赤にしながら答えた。
「さ、先ほど来た女の子がくれたのです。娘が欲しいと我ままを言ってしまって…」
「くれた、と?」
「はい…」

「あのね、リボンとお花を交換したの!」
「花?」
「えぇ、娘がリボンをくれたお礼に、と道端で摘んだ花束を押し付けたのです」

「…その娘がどこへ向かったかわかるか?」
「そこまでは…。でもこの道をまっすぐ行きました」
「そうか…ありがとう」

そう言って立ち去った後ろ姿が見えなくなるまで、母親はソードに見とれていた。


+ + + + +


「まさかあのリボンを他人に譲るとは…」
「あいつらしいけどな」
「今度の手がかりはこの道を来た、ということだけだね」
「花束を持っている、というのも手掛かりといえば手掛かりになる」
「でもそれだったらあいつの容姿の方がよっぽど目立つぜ」
「そうだね。……!」
「どうした、エリオット」

「…ちょっとおたずねしてもいいですか?その花束はどうしたのですか?」
エリオットが話しかけたのは20歳前後の女性。
女性は10歳以上年下のエリオットの顔を見て頬を染めて固まった。
そんな様子を見て内心の焦りと苛立ちを隠し、エリオットは根気強く返事を待つ。

「さっき、ここを通った女の子にもらったのよ」
「女の子?」
「とても綺麗な…そう言えばあなたと同じ髪と瞳の色をしてたわ。もしかして妹さん?」
「そうです。その子はどこへ行ったかわかりますか?」
「この道を右にいったわ」
「他に何か知ってますか?」
「何も…そうだ、私、花束のお礼にクッキーをあげたわ」
「ありがとうございました」
お礼を言うとぽうっと顔を赤らめた女性には見向きもせずに3人はまた走り出した。


+ + + + +


「今度の手がかりはクッキーか」
「この調子ならまた誰かにあげてる可能性があるね」
「それならそれで証言がとれるからいいんだがな」
「クッキー持ってるやつね……いた」

エースは袋に入ったクッキーを食べている、10歳前後の女の子に近づいた。
「そのクッキー、ひょっとして金の髪の女の子にもらった物か?」
その女の子はエースをみて頬を染めた。
「う、うん。なんで知ってるの?」
「その女の子は俺の妹だ。どこへ行ったかわかるか」
「たぶん劇場だと思うわ」
「劇場?」
「私クッキーのお礼にさっき拾ったチケットをあげたの。それでその劇場の場所を教えてあげたから、たぶんそこへ行ったんだと思う」
「礼を言う」
自分に見とれている女の子に用がなくなった3人は再び走り出した。

「ようやく目的地が見えたね」
「でもいくらチケットがあったってこの状態であいつが一人で見ると思うか?」
「それはないだろう。だが落し物を届けようとは考えそうだ」
「なるほど…それならあり得る」
そんな会話をしながら3人は劇場へ向かった。


+ + + + +


「ここがあの人の言っていた劇場ね」
落し物を届けるにはどこがいいのかしら、とあたりを見渡している少女の耳に、聞いたことのある声が飛び込んできた。

「あら?チケットがないわ!」
「モリー母さんや、落ち着いて探してごらん」
そこにいたのはウイズリー夫妻だった。

「モリーさん?」
少女の呼びかけに彼らは驚いて少女の名前を呼んだ。
「なんでこんな所にいるの?お兄さんやお父さんは?」
「それが…」

少女はこれまでのことを話した。
フルーパウダーを使っている最中にくしゃみをしてしまい、知らない暖炉に出てしまったこと。
初めに会った女の子が自分の付けていたリボンを欲しがって泣いたからあげたらお礼に花束をもらったこと。
その花束を持って歩いていたら、もうすぐパーティを始めるのにテーブルに飾ろうと思っていた花がない、と慌てていた女性に会って、花束をあげたら代わりに余ったクッキーをくれたこと。
そのクッキーを持って歩いていたらお腹を空かせた女の子に会ったからクッキーをあげたこと。

そしてそのお礼にもらったチケットを見せて言った。
「その女の子がこれを拾ったものだけど、ってくれたの。モリーさんのかもしれないわ」
その席の番号を確認してモリーは驚いた。
「確かにこれは私のだわ!」
「よかった」
そう言ってほほ笑んだ少女に見惚れそうになる自分を叱咤して、モリーはキッと目を吊り上げた。
「よかった、じゃありません。まだお兄さんやお父さんと合流できてないでしょう?あの3人のことだからここを突き止めるでしょうから、一緒にここで待ってなさい」
「でも…」
「あなたをあの3人に引き渡すまでは絶対に中には入りませんからね。中に入っても心配で心配で居ても立ってもいられないでしょうから」

一歩も引くつもりのない夫婦の様子に少女が困り果てていると自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「見つけた!」
「どこも怪我してない?」
「無事でよかった」

凄い勢いで走ってきてギュッと自分を抱きしめる3人の様子に目を白黒させる。
「ど、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないだろう」
「俺たちがどれだけ心配したと思ってるんだ」
「お前は、自分に危険がないことが分かっていただろうが、私たちは知らなかったのだよ」

「あ…!心配かけてごめんなさい」
しゅんとしたその様子に3人は苦笑した。

「無事でいてくれたから、もういいよ」
「じゃあ帰るか」
「え?私まだクリスマスプレゼント買ってないわ」
「いいよ。今日は疲れたからもう帰ろう」
「でも…」

エースは、納得する様子のない妹を見て、愛おしそうに笑ってその手に軽く口づけをした。
「それに、お前の無事な姿が俺達にとっての何よりのプレゼントだ」
「エースの言う通りだよ。僕たちの最愛の人」
エリオットも同じような顔をして額に口づける。

とても10歳前後の子供が作り出しているとは思えない甘い空気に、ウィズリー夫妻は顔をひきつらせた。
「ソード…兄弟仲がいいのは良いことだが、その、ちょっと仲が良すぎないかね?」
「…私もそれが心配なのだ」

その次の日の朝、記録者の館では、ちゃっかり事前にプレゼントを用意ていた3人に驚き、屋敷しもべ妖精に教わってケーキ作りに奮闘する少女の姿が見られたという。


クリスマス小話、『光の行方』編でした。楽しんでいただけましたでしょうか?
オリキャラばかりですみません。書いている管理人はとても楽しかったのですが…。
感謝の気持ちを込めた贈り物のはずが自己満足の塊に…!
因みに、夢主→5歳、エース→12歳、エリオット→13歳、くらいの頃のお話です。

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